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研究内容

生体内の物質から工業製品まで、多くの材料は単一素材ではなく複合化されているものであり、複合系であれば界面が存在し、接着が関与しており、これが性能に大きく影響している。たとえば最先端の電子材料の超LSIの封止樹脂は、エポキシ樹脂、シリカ等の無機粒子、エラストマー、シランカップリング剤等の複合材料であり、その分散構造(モルフォロジー)や界面が特性を決定するといって過言ではないが、これらと物性との基礎的な解明は十分ではない。

当研究室では、「複合系の高性能化のためにはいかにモルフォロジーや界面を設計すればよいか?」を目的とし、粒子充てん系高分子複合材料、粘着剤、接着剤について

  • 1) モデル的な界面やモルフォロジーをつくる。
  • 2) 界面やモルフォロジーを知る(測る)。
  • 3) 界面やモルフォロジーと複合材料の物性との関連を知る。

の基礎的な研究を行っている。

粒子充てん系高分子複合材料の界面の構造と物性

高分子と無機粒子を複合化した場合、その性能は「界面」で決まる。粒子充てん高分子複合材料の界面を接着させる目的で、 シランカップリング剤が工業的に加えられており、その効果も発現しているが、界面でどのように機能しているかはブラックボックスである。これを解明し、さらに高性能な機能的な界面の創成を目的にしている。電子材料用途の複合材料の高性能化を目指している。

当研究室では、表面、界面の評価を以下のように行なっている。

  • 1) 表面をつくる
    シランカップリング剤による表面処理で無機粒子表面にさまざまな構造をつくる(図1)。
  • 2) 表面を知る
    シランカップリング剤によるさまざまな構造について
    • [1] 原子間力顕微鏡(AFM)でモルフォロジーを測る(図2)。
    • [2] パルスNMRで分子運動性を評価する。
    • [3] 示差熱熱重量同時測定(TG-DTA)で共有結合した成分の割合を知る。
  • 3) 複合材料をつくる
  • 4) 複合系の界面を知る
    • シランカップリング剤とマトリックス高分子の分子鎖が界面でどのように絡み合い、相互作用を持っているかをパルスNMRで評価している。
  • 5) 複合材料の特性を知る


図1 シランカップリング剤処理層の構造

  • 日本接着学会誌 45(6), 229-235 (2009)


図2 シランカップリング剤処理層のAFMイメージ(図1の中央の構造)

  • Composite Interfaces 12(7), 669-681 (2005)
  • J. Adhesion Sci. Technol. 25, 2703-2716 (2011)
  • Composite Interfaces 17, 395-404 (2010)
  • J. Appl. Polym. Sci. 113(3), 1507-1514 (2009)

粘着剤の粘着性発現メカニズムの解明

粘着剤は古くから使われているが、「なぜくっつくのか?」については十分に解明されていない。粘着強さには、[1]被着体との界面に十分に密着することと[2]引き剥がされるときにこれに抵抗する高い凝集力をもつことが必要であるが、[1]は柔軟さ、[2]は硬さという相反する性質が必要である。粘着剤は、ゴムにタッキファイヤと呼ばれる粘着付与剤を加えて作られるが、タッキファイヤは[1]と[2]の両方を向上させる。この謎を解明しようとしている。

1) タッキファイヤのモルフォロジー

タッキファイヤはゴムに相溶しているのではなく、ナノサイズの分散構造を形成する場合の粘着強さが高いことが分った(図3)。
粘着強さとタッキファイヤのモルフォロジーの関係について検討している。
被着体との界面の密着性は、パルスNMRで評価した分子の運動性との関連から検討している。


図3 タッキファイヤのモルフォロジー(黒い部分がタッキファイヤの集合体)

  • J. Appl. Polym. Sci. 123(5), 2883-2893 (2012)
  • J. Adhesion Sci. Technol. 26, 231-249 (2012)
  • Int. J. Adhesion Adhesives 28(7), 372-381 (2008)
  • J. Adhesion Sci. Technol. 22, 1313-1331 (2008)

2) 糸曳き挙動の解明

粘着剤は、引き剥がす際に「糸曳き」と呼ばれる特有の変形挙動を示す(図4)。つまり粘着剤の凝集力([2])は、粘着剤固体の粘弾性だけでなく、糸曳きを考えないといけない。この解明を行っている。

図4 粘着剤の糸曳き(a: 上面.b: 側面)

a.

b.

  • 日本接着学会誌 47(8), 294-301 (2011)
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ブロックコポリマーのモルフォロジーと接着特性

ポリスチレン-block-ポリイソプレン-block-ポリスチレンのトリブロックコポリマー(SIS)やこの2成分のジブロックコポリマー(SI)については、組成とモルフォロジーの関係がこれまでに多く報告されている。しかしながら、モルフォロジーを観察しやすい比較的低分子量のブロックコポリマーでの検討が多いために、モルフォロジーと実用特性の関連は十分には解明されていない。また、実用的には熱力学的に非平衡のモルフォロジーで用いられることが多い。

当研究室では、SISやアクリル系のトリブロックコポリマーおよびこれにジブロックコポリマーをブレンドした系について、モルフォロジーが力学特性や粘着特性に及ぼす影響を検討している(図5)。

図5 ブロックコポリマーのモルフォロジー(a: TEMイメージ, b: AFMイメージ)

a.

b.

  • J. Appl. Polym. Sci. 120(4), 2251-2260 (2011)
  • J. Appl. Polym. Sci. 118(3) 1766-1773 (2010)
  • J. Adhesion Sci. Technol. 25, 869-881 (2011)
  • 日本接着学会誌 47(4), 138-145 (2011)

接着剤の高性能化

エポキシ樹脂をモデルに、複合化によって「強度」、「破壊靭性」、「熱膨張係数」、「耐水性」等をいかに向上させるかについて、複合則に従う特性、従わない特性、その場合はなぜかを検討している。

応用としてメーカー等と共同で、自動車を接着技術で軽量化して燃費を大幅に改善することや、従来困難であったプラスチックと金属の接着を可能にする技術開発に協力して自動車製造の省エネに挑戦し、地球のECOに貢献しようとしている。また、エジプトのピラミッドの地下で見つかった4000年前の壁画を修復・保存しようとする国際プロジェクトに、接着技術で参加している(図6)。文化財の保存にも貢献している。


図6 4000年前の古代エジプトの彩色壁画

  • きんか 61(12), 01-04 (2009)
  • Semawy Menu 2, 111-118 (2011)
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